クリニックの開業後、労務管理の問題によってトラブルに発展するケースが多く見受けられます。労働基準法に関連する違反は行政処分のリスクを伴い、スタッフの離職にもつながる恐れがあります。本記事では、クリニックが陥りやすい労使トラブルの具体例と、院長が行うべき対策について解説します。
クリニックの労務管理において、遅刻に対する過度な減給は労働基準法違反となるリスクがあります。「15分以上の遅刻数回で1日分の欠勤扱いにする」といった独自のルールは違法となる可能性が高いため注意が必要です。また、勤務態度が悪いといった理由であっても、客観的で合理的な理由や適切な改善指導のプロセスを経ない突然の解雇は、解雇権の濫用と見なされて無効になる可能性が高いです。
タイムカードに記録された実際の労働時間と、賃金計算上の労働時間が異なる管理は労働基準法違反となります。たとえば、始業前の診療準備や、診療時間外の患者対応、終業後の片付けなどはすべて労働時間として扱わなければなりません。これらの業務に対する残業代を支払わないことは違法であり、スタッフのモチベーション低下や離職にも直結するため、実労働時間に応じた正確な管理が求められます。
クリニックでは、法的な問題だけでなくスタッフの勤務態度に関するトラブルも頻発します。たとえば、診療が長引いて患者がまだ待合室にいるにもかかわらず、残業を拒否して勝手に帰宅してしまうケースが挙げられます。また、院長の業務指示を聞かず、自分のやりたいように仕事をし始めるなど、医療機関特有の応召義務や職場のルールを理解していないことによるスタッフ側の問題行動も代表的なトラブル事例です。
こうしたトラブルが起きる根本的な原因として、管理者の労働法規への理解不足が挙げられます。医療の専門家である院長自身が基本的な労働法規を把握していないケースは少なくありません。さらに、クリニック特有の二交代制など複雑な勤務体系により、休憩時間や実労働時間の区別が曖昧になりやすいことも原因です。適切な勤怠管理ができていない現状が、労務トラブルを引き起こす大きな要因となっています。
労使トラブルを未然に防ぐためには、就業規則の整備が欠かせません。労働基準法では常時10人以上の事業場に作成義務がありますが、10人未満のクリニックでも明確なルール作りのために作成することが強く推奨されます。特に、医療機関としての特殊性を踏まえた残業ルールや、院長の指示に従う義務を定めた「服務規律」を就業規則に明文化することが重要です。これにより、問題行動を起こすスタッフに対して、正当な根拠をもとに注意指導や懲戒処分を行える体制が整います。
就業規則に加えて、入職時に必要な書面をしっかりと取り交わすことも重要な対策です。正社員やパートタイムなどの雇用形態にかかわらず、労働条件を明確に記載した雇用契約書を必ず締結しましょう。とくに有給休暇の取得条件などは雇用形態ごとに基準を明記すべきです。さらに、スタッフの身元に関する保証を確保する身元保証書や、患者情報などの機密情報を保護するための秘密保持誓約書を取り交わすことで、クリニックを守る体制をより強固なものにできます。
クリニックにおける労使トラブルは、行政処分の対象となるだけでなく、スタッフの離職や評判の低下という大きなリスクを伴います。トラブルを防ぐためには、開業準備の段階から就業規則の整備や雇用契約書の取り交わしを行い、クリニックを守るための適切な労務管理体制を構築しておくことが重要です。
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