「のれん代」とは、医療機関やその他の企業が持つブランド力、立地の良さ、患者数など、帳簿上では評価できない無形の価値を指します。「営業権」とも呼ばれ、病院やクリニックの収益力を示す重要な要素です。
M&Aにおけるのれん代は、医療機関の過去の業績や将来の収益性を見込んで評価され、譲渡価格に大きく反映されます。たとえば、医療機器や設備などの有形資産だけではなく、そのクリニックが培ってきた患者との信頼関係や地域での評判も含めた価値が考慮されるのです。病院やクリニックの譲渡価格は「固定資産(医療機器や設備)」+「のれん代」として計算されます。
のれん代の評価には、いくつかの方法があります。M&Aでは、一般的に「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つの手法が用いられます。
病院の貸借対照表上にある資産と負債の差額を基準に、時価で再評価した上で算出される方法です。この手法は、医療法人のM&Aでよく使用されますが、将来の収益力を十分に反映できないという欠点があります。そのため、のれん代を加えることで、将来的な価値を反映させます。
同じような規模や収益性を持つ他の医療機関と比較して評価を行う方法です。市場での取引価格や同業他社のM&A事例を基に評価するため、客観性があります。しかし、類似する医療機関が少ない場合や、比較対象が見つからない場合には適しません。
将来的に生み出すキャッシュフローを予測し、その現在価値を計算する方法です。この手法は将来の収益性を強く反映するため、最も合理的な評価方法とされています。ただし、将来の収益予測が難しい場合や、専門知識を必要とするため、小規模なクリニックや病院ではあまり使われません。
のれん代は、病院やクリニックの譲渡価格に大きく影響します。M&Aにおいて、単純に医療機器や建物の価格だけでは、その病院の本当の価値を測れません。実際には、患者数や地域での信頼度、医師やスタッフの技術力、経営者のノウハウなど、目に見えない無形の価値が大きな役割を果たします。
このため、M&Aの譲渡価格は「固定資産」や「純資産」に加え、のれん代がプラスされることで最終的に決定されます。内装や医療機器が高額でも、地域での信頼が低い病院ではのれん代は少なく、逆に設備が古くても高い評判を持つ病院ではのれん代が高くなることもあります。
のれん代の評価には課題も多く存在します。評価方法によっては、売却側と買収側の見解が大きく異なり、価格交渉が難航するケースも少なくありません。クリニックの将来の収益性を過大評価してしまうと、買い手が見つからないこともあります。逆に、のれん代を軽視しすぎると、病院の本当の価値が反映されないまま売却される可能性があります。
こうしたリスクを回避するためには、過去のM&A事例や市場の動向を踏まえ、客観的かつ現実的な評価を行うことが大切です。また、のれん代の評価は目安にすぎないため、最終的な譲渡価格は、売主と買主の合意によって決まることも理解しておく必要があります。