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障害福祉サービス業界におけるM&A成功事例と傾向

障害福祉サービス業界のM&A現状と背景

障害福祉サービス業界の現状と市場規模

2022年時点における国内の障害者数は約990万人。全人口に対し約8.2%の方が、何らかの障害を抱えている計算になります。障害福祉サービスへのニーズは年々増加しており、国内の市場規模は約4兆円とされています。

社会の高齢化を背景に市場は拡大傾向にありますが、業界全体として人手不足の課題を抱えています。事業の存続や従業員の雇用維持、またはコンプライアンス体制の強化を目指し、M&Aによる事業承継を選択するケースが増加しています。

制度改正と障害福祉サービスの課題

障害福祉サービスのニーズが高まる一方で、慢性的な人材不足が供給体制の維持を難しくしています。

加えて、原則3年に1度行われる「障害福祉サービス等報酬改定」による影響も小さくありません。特に2024年度の改定では、就労継続支援A型におけるスコア方式の厳格化や、放課後等デイサービスでの5領域支援の明確化など、提供するサービスの「質」や「事業の持続性」がより厳しく問われる体制へと移行しています。

人員配置基準の充足や、各種要件への対応負担が増加する中、事業継続の選択肢としてM&Aが着目されるようになりました。

障害福祉サービス事業のM&Aが増加する背景

政府は地域包括ケアシステムの推進など様々な支援政策を実施していますが、現場の必要量に対して事業者のリソースが追いついていない状況が散見されます。

多くの中小事業者にとって、専門職の確保や運営体制の高度化に必要な資金・労力を単独で負担し続けることは容易ではありません。他業種と同様に事業主の高齢化や後継者不在問題が背景にあることはもちろんですが、制度改正に適応するための「経営基盤の強化」を目的としたM&Aが増加しているのが、この業界特有の傾向と言えます。

障害福祉サービスM&Aのプロセスと重要な注意点

障害福祉サービスM&Aの基本的な流れ

1. M&Aの専門家へ相談をする

初めにM&Aの仲介会社などの専門家へ相談します。障害福祉分野のM&Aには特有の行政手続きや法規制が絡むため、障害福祉サービス等報酬の仕組みや指定基準(人員・設備・運営)に詳しい専門家を選ぶことが推奨されます。

2. 指定権者(自治体)との事前協議とスキームの選定

障害福祉サービスのM&Aでは、事業所が所在する自治体(指定権者)のルール確認が不可欠です。地域によっては新規の指定を制限する「総量規制」が敷かれている場合があります。その場合、事業譲渡(新規指定の取り直し)では事業を引き継げない可能性があるため、法人格ごと譲渡する株式譲渡(持分譲渡)などの適切なスキームを検討します。

3. デューデリジェンスを実施する

買収側が決まったら、デューデリジェンス(買収監査)を実施します。財務や法務面のほか、障害福祉特有の調査として「過去の運営指導(実地指導)の指摘状況」「各種加算の算定根拠書類の有無」「個別支援計画書の作成状況」などが詳細にチェックされます。

4. 契約交渉と事業統合(PMI)

調査結果を踏まえ、最終交渉を実施して契約を締結します。その後、従業員や利用者への説明を行い、実際の事業統合を進めていきます。

デューデリジェンスと運営指導(旧実地指導)への対策

M&Aのプロセスにおいて、買収側はデューデリジェンスを通じて事業所が抱える潜在的なリスクを調査します。

障害福祉サービスにおいては、人員配置基準違反や、個別支援計画書の同意不備などがあった場合、行政から過去に遡って報酬の返還(返還金)を求められるリスクがあります。そのため、日々のサービス提供記録の整合性や、BCP(業務継続計画)の策定、虐待防止委員会の開催記録など、法令で定められた運営要件が適切に整備されているかが、評価を左右する重要な指標となります。

障害福祉サービス事業の譲渡メリットと適正評価のための戦略

障害福祉サービス事業を譲渡するメリット

事業を譲渡する主なメリットの1つが、事業承継問題の解消です。後継者不在で先行きの経営に不安を抱えている事業所でも、M&Aにより新たな経営者のもとで、地域に必要とされる事業と利用者の居場所を維持することができます。

また、採用難による人員不足や、制度改正に伴う運営管理の負担を感じている経営者にとっても、資本力のある法人へ合流することでこれらの経営リスクを軽減できる点は、大きなメリットと言えます。

サービス種別ごとの評価ポイント

M&Aにおける事業所の評価(譲渡価格の算定)は、サービス種別の特性によって着目されるポイントが異なります。

適正な条件で譲渡するための準備とタイミング

障害福祉サービス事業を適正な評価で譲渡するためには、M&A市場の動向だけでなく、報酬改定のトレンドを把握しておくことが重要です。

例えば、今後の制度変更等により、すでに指定を受けている「既存事業所」の報酬体系が維持される一方で新規開設のハードルが上がるような場合、既存事業所の価値が相対的に高まる傾向があります。制度変更のタイミングを見据え、書類整備などのコンプライアンス体制を日頃から整えておくことが、円滑な譲渡につながります。

売却を検討してすぐにM&A専門会社へ相談している点も、多くの成功事例に共通するポイントです。時間に余裕を持つことで、希望の条件に合う譲受企業をリサーチしやすくなります。

障害福祉サービス事業の買収メリットとリスク管理

障害福祉サービス事業を買収するメリット

障害福祉サービス事業を買収する主なメリットは、許認可(指定)や既存の施設基盤、利用者基盤を引き継げることにあります。

ゼロから事業を立ち上げる場合、物件探しから指定申請、人員の採用、利用者の確保までに多大な時間とコストを要します。また、総量規制の対象地域では新規参入自体が困難なケースもあります。これらの課題を回避し、事業開始直後から一定の稼働率が見込める状態で運営を引き継げる点は、買収側の大きなメリットです。

障害福祉サービス事業買収に伴うリスク

M&Aは異なる企業文化の融合であるため、買収後の従業員の離職リスクには十分な注意が必要です。

障害福祉サービスは有資格者の配置が指定基準に直結するため、M&A後にサービス管理責任者などの重要な人材が離職すると、人員基準欠如による減算や、最悪の場合は事業停止のリスクが生じます。また、従業員の士気低下は支援の質に影響し、利用者離れを招く恐れもあります。

買収後の事業統合を円滑に進める方法

障害福祉サービス事業は、従業員と利用者の信頼関係の上に成り立つ事業です。

買収側は売却側の企業文化や価値観を十分に把握し、新しい運営方針を急激に押し付けないよう配慮することが求められます。従業員とのコミュニケーションを密に取り、処遇や労働環境の改善など前向きな変化を丁寧に伝えることで、信頼関係を構築していくことが、統合プロセス(PMI)を成功させる鍵となります。

障害福祉サービスM&Aの成功事例

選択と集中の実現のため放課後等デイサービス事業を売却

本業の建設業のほか、複数県にまたいで放課後等デイサービス事業を営んでいたA社。すべての拠点をマネジメントすることが難しいこと、本業へ集中したいこと、赤字が慢性化している拠点もあったことなどを理由に、放課後等デイサービス事業の売却を希望しました。

M&A仲介会社の紹介で、関東近辺で同業を営む買収希望企業B社と交渉。ちょうどB社の拠点がA社の拠点と近かったことでシナジー効果が期待できたことから、双方納得の条件でのM&Aが実現しました。

買収側が大手だったこともあり、売却側の従業員は実質的なキャリアアップにつながったことから、一人の退職者も出さずに売却が完了しました。

※参照:障害福祉M&A支援センター(https://fukushi-ma.com/example/pickup?id=1)

障害福祉サービスM&Aを成功させるための重要なポイント

M&A専門家の活用

障害福祉サービス事業のM&Aを成功させるための重要なポイントは、同分野のM&A実務に詳しい専門家へ相談することです。

M&Aのプロセスでは、準備段階から交渉、契約、事業統合に至るまで、専門性の高い実務が発生します。特に障害福祉サービス特有の指定要件や加算の仕組みなどを正確に評価できる専門家のサポートは、適正なマッチングとリスク回避に不可欠です。

経営理念や企業文化の統合

売却側と買収側の経営理念・企業文化のすり合わせも、重要なポイントとなります。

経営理念をベースに育まれた企業文化は、従業員の労働意欲や支援の質に影響を与えます。M&A成立後も、これまで通り利用者に寄り添ったサービスを提供し、経営に一貫性を持たせることが、従業員の定着と安定した運営につながります。

リスク管理と予防策

統合後のリスク管理において特に重要となるのは、従業員のモチベーション維持です。急な制度変更は離職率を上げる要因になりかねません。経営陣が変わる不安を払拭するためにも、誠実な情報開示と面談を通じたフォローアップを重ねることが、結果として事業価値を守る有効な予防策となります。

まとめと障害福祉サービスM&Aの展望

障害福祉サービス業界におけるM&Aの将来性

日本の人口構成の変化に伴い、障害福祉サービスのニーズは今後も安定して推移すると見込まれています。

一方で、人材の確保や制度改正への対応といった経営課題は複雑化しており、単独での事業継続が難しい状況も生じています。こうした経営環境において、地域の福祉インフラを維持し、職員の雇用を守る手段として、M&Aは今後も重要な経営戦略の1つとして活用されていくと考えられます。

障害福祉サービスM&Aを検討する際に意識すべきこと

M&Aを検討する際には、障害福祉サービス等報酬の改定動向を注視し、自院のコンプライアンス体制(運営指導への対応状況など)を客観的に把握しておくことが大切です。

また、従業員が働きやすい職場作りや、利用者が安心できる環境の提供といった日々の誠実な事業運営こそが、M&A時において買収側から評価される最大の「無形資産」となることを意識して準備を進めましょう。