医療法人や病院、クリニックなどのM&Aによる売却(譲渡)相場についてまとめました。
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一般企業のM&Aの場合、企業価値をベースに売却価格の交渉が行われますが、医療法人やクリニックのM&Aにおいても同様です。算出方法については、医療法人やクリニックの価値評価に対して様々な捉え方あるため、仲介会社によって異なります。
ただ、多くのM&A仲介会社でよく用いられているのが、後述する「時価純資産+営業権(のれん)」となっています。
時価純資産とは、時価資産から時価負債を差し引いたものです。一方、営業権(のれん)は、診療ノウハウや人材力といった将来的に収益性のある無形資産を指します。営業権に関しては客観的な判断が難しいため、直近の医業利益に所定の年数(3~5等)を乗じた「年倍法」などの評価法を用いて算出することが多いです。
上述の「時価純資産法」以外にも算出方法がいくつかあります。一つが「DCF法」です。キャッシュフローに着目して価値評価を行なう手法で、事業計画がしっかりできていると評価価格が期待できます。また「取引事例法」という、過去の取引実績に基づいて算出する方法もあります。
医療法人やクリニックの売却(譲渡)は、M&A仲介会社によって評価方法や価格の算出方法が異なります。売却の相談をする際に、少しでも根拠に疑問を感じる点があれば、直接確認するようにしましょう。
また、M&Aの成功には、仲介業者の手腕も重要な鍵を握ります。ほとんどの仲介業者は譲渡側の相談料を無料にしているため、納得がいくまで相談をすると良いでしょう。
実際に売却をした医師の事例を見て、どのような人が仲介してくれるのかを見極めるのもおすすめです。
公式サイトに医療機関の実績・事例を掲載しているM&A仲介業者を特集しているので、併せてご確認ください。
当然ですが、譲渡元の経営状況が良く継続して利益を出せているようであれば、売却価格にも跳ね返ってきます。逆に、経営状況が悪ければ、売却価格も下がってしまうでしょう。しかし、現在の経営状況が悪くても今後採算が見込める要素がある場合は、売却価格が高くなることもあります。
土地や建物を所有している場合、医療機関の価値評価に不動産も加わってきます。築年数をはじめ、建物や設備の状態なども価値評価に影響を与える要素です。不動産をもっておらず賃貸の場合、M&Aの内容によっては譲受先に引き継ぐケースもあるので、賃料について譲受相手に説明をしておく必要があります。
医療機関の立地条件も売却価格に影響する要素です。「駅に近くてアクセスしやすい」「人口密度が集中している」など集客が見込める立地の場合、評価も高くなります。
また、患者数も同様です。現在の患者数にくわえて、地域住民の年齢層や性別も長いスパンで見た場合に患者数の増減に影響を与えるため、地域の人口構成などから判断されるケースもあります。
買い手にとって、一から従業員を見つけるのは時間とコストがかかるため、今勤務している従業員をそのまま引き継げるかも、売却価格の評価をする上でのポイントです。特に、医療業界は慢性的な人材不足に陥っているため、従業員を確保できることは、買い手にとっても大きなメリットとなります。
診療科目も売却価格に影響を及ぼす項目です。医療機関のM&Aにおいて、診療科目で需要が高いのは内科や外科です。また、美容外科や歯科医院も買い手側からのニーズが高い傾向にあります。診察内容によって継続的な利益が見込まれる場合、売却価格にもいい影響を及ぼします。
クリニックや医院の売却価格は、一般に「時価純資産+営業権」で算出します。
時価純資産とは、クリニック等が保有する資産の総額から負債の総額を差し引いたもの。営業権とは、診療ノウハウや評判など、クリニック等の収益力につながる無形の資産を言います。
以上を前提に、個人経営の医療機関と医療法人経営の医療機関に分け、売却価格の計算例を簡単に見てみましょう。
個人(非医療法人)経営の医療機関の売却価格は、概ね次のような計算式で算出されます。
仮に、医療機関の資産総額が5000万円で負債が2000万円、年間利益が1000万円だった場合には、次のような計算となります。
計算すると、売却価格は3000万円から4000万円となります。
非医療法人の医療機関の売却価格は、概ね次のような計算式で算出されます。
仮に、医療機関の資産総額が1億円で負債が5000万円、年間利益が2000万円だった場合には、次のような計算となります。
計算すると、売却価格は1億1000万円から1億5000万円となります。
なお、以上の計算例は、分かりやすくするため極端に簡素化しています。実際のM&Aでは他にも様々な個別条件等を加味して計算するため、ご自身の医療機関の売却をお考えの方は、M&Aの専門家などに相談してみましょう。
クリニック・病院のM&Aにおいては、他業種おM&Aと同様、譲渡益などの利益が生じた際には税金がかかります。以下、個人経営の医療機関と医療法人経営の医療機関に分け、それぞれの売却時にかかる税金の概要を確認しましょう。
個人経営の医療機関を事業譲渡で売却した場合、「譲渡価格」から「譲渡資産の時価」を差し引いた額が売却した者の所得(利益)となり、この所得に対して各種の税金が課されます。
課される税金の種類と税率は、譲渡所得税が5~45%(所得金額により異なる)、復興特別所得税が2.1%、住民税が10%。復興特別所得税とは、東日本大震災の復興に充てられるために創設された税金で、2037年12月31日まで限定的に納付する税金です。
なお、譲渡所得税は他の所得(給与など)と合算して計算される総合課税方式を採用しているため、他の所得がマイナスの場合は課税対象となる所得が減り、その分だけ譲渡所得税が安くなります。
医療法人経営の医療機関を売却した場合、「出資持分譲渡額」から「設立時出資金」と「必要経費(仲介手数料等)」を差し引いた額が譲渡益となり、この譲渡益に対して各種の税金が課されます。
課される税金の種類と税率は、所得税が15.315%、住民税が5%。合計20.315%となります。
以上は一般的なM&A売却手法での税金計算となりますが、別の手法で売却した場合、別の税金計算が求められることもあります。医療法人の医療機関を売却した際の税金計算は複雑なので、詳しく知りたい方は税理士等に相談すると良いでしょう。
なお、医療法人経営の医療機関を売却した場合の税金には、申告分離課税が採用されています。個人経営の医療機関を売却した場合と異なり、他の所得(給与など)と所得を合算することができない点にご注意ください。
退職金には優遇税制が用意されていることから、法人の売却価格を下げて退職金の額を上げる手法を用いることで、節税できることがあります。ただし、実際に節税可能かどうかは売却手法にもよるため、他の税金とあわせて総合的に検討しましょう。
なお、退職金が不相応に高額な場合、税務調査を通じて法人税が増える恐れがあるので注意しましょう。一般的には、次の計算式で算出した金額を超過した場合、「不相応に高額な退職金」とされています。
参考にしてください。
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