近年、後継者不足や経営環境の変化を背景に、内科クリニックにおけるM&Aが増加傾向です。内科クリニックは、新規開業に伴う建築コストの高騰や物価上昇、競争の激化が要因となり、開業後の患者集客に苦労するケースが増えています。M&Aなら既存のクリニックの機器や顧客をそのまま引き継ぐことが可能です。新規開業を目指す医師が買収を検討する動きが活発化しています。M&Aは事業承継や経営効率化の手段としても注目されており、医療機関の存続や成長戦略の実現にも寄与しています。
内科クリニックがM&Aを検討する主な理由として、後継者不在による事業承継、経営難からの再建、成長戦略としての多院展開などが挙げられます。後継者不在の問題は、子どもが別の道を選ぶケースが増加していることから深刻化しています。
経営難の場合、M&Aによって買い手側の経営ノウハウや資源を活用し、業績回復を図ることが可能です。また、事業拡大を目指す医療法人や個人医師にとって、M&Aは新規開業よりも既存の患者基盤や設備を引き継げるメリットがあります。さらに、地域医療の継続性確保や経営効率化の手段としてもM&Aが注目されています。
M&Aの一般的な流れは以下のようになります。
まず、準備が必要です。M&Aの目的や方向性を明確に定めた上で、M&A仲介会社などの専門家に相談し、M&Aの方針・戦略・課題・売却価格などを検討します。
次に、M&A先の選定です。相手先が決まったら交渉を始め、基本合意の締結を行います。
買い手側によるデューデリジェンスが実施され、最終条件の交渉に入ります。最終契約の締結後、クロージングを行い、買い手側による統合プロセス(PMI)が実施されます。最後に、M&A後の情報開示や事業展開を行います。
九州北部の地方都市にあるTクリニック(内科・小児科)のM&A事例です。後継者不在に悩むTクリニックの院長は、早期にM&Aを検討し始めました。一方、福岡県の大学病院勤務医S医師は、新規開業を考えていましたが、集患やスタッフ確保に不安を感じていました。
Tクリニックは売上高約1億2千万円で訪問診療も行っており、S医師は承継開業という選択肢に魅力を感じました。地方のクリニックながら安定した経営状況であり、不動産を含めた売買金額も無理なく返済可能と判断。地域の患者との繋がりや良好な住環境も決め手となり、S医師はTクリニックの承継を決意しました。
Tクリニックの院長が早めに相談を開始したため、時間をかけて最適な後継者を探すことができました。譲渡が決定してから承継完了まで2年3ヶ月を要しましたが、早期の行動が実を結んだ成功事例です。
70代の内科医A医師が、40代のB医師に医療法人(旧法)を承継したM&A事例です。A医師は高齢のため診療範囲を縮小し、無床診療所となっていましたが、往診専門の小規模診療所を開業したいと考えていました。一方、B医師は勤務医で開業を希望しており、両者のニーズが合致しました。
M&Aの1年前からB医師が週1回の診療を開始し、徐々にA医師からB医師へ診療を引き継ぎ、患者や従業員の抵抗感を減らす工夫をしました。譲渡価格は3000万円で、A医師への退職金支払いにより持ち分評価を下げ、課税を抑えました。B医師は医療法人として融資を受け、保証人リスクを軽減し、初期投資を抑えることができました。従業員は全員引き継がれ、診療時間変更以外は給与も上がり、大きな不満はありませんでした。
かねこクリニック(小児科・内科、神奈川県川崎市)のM&A事例です。院長の金子先生は、国境なき医師団での活動を視野に入れ、2018年頃から事業承継を検討し始めました。当初は譲渡が難しい状況でしたが、3年かけて医療法人社団晴琉会への譲渡を実現しました。
M&Aの過程で3度の閉院危機がありましたが、金子先生と晴琉会、担当コンサルタントが協力し、一つ一つ問題を乗り越えました。特に、調剤薬局の閉局、譲渡先候補との破談、テナントオーナーの交代などが大きな障壁となりました。
金子先生が最も重視したのは「誰に譲渡するか」です。条件だけでなく譲受側の想いや人柄を重視しました。譲渡後も金子先生は院長として残り、晴琉会が経営を行う体制となり、従業員の雇用継続と地域医療の継続が実現しました。
内科クリニックのM&Aにおいて、売却側のメリットは大きく6つあります。
内科クリニックは、地域医療において重要な存在です。その使命感から、経営を辞められない医師も多いでしょう。M&Aを活用すれば、廃院を避け、地域医療を継続することができます。また、スタッフの雇用を維持できるため、従業員の負担も軽減可能です。
譲渡対価として創業者利益を得ることもでき、廃院に伴う費用を回避できます。さらに、勤務医として継続勤務するケースも少なくありません。経営者としての業務負担を軽減し、医師としての仕事に専念できるようになります。
大手法人の傘下に入ることで、設備投資や事業拡大の機会が得られる可能性もあります。後継者問題を解決し、マネジメント面の改善にもつながる可能性があります。
内科クリニックのM&Aにおいて、買収側のメリットは大きく4つあります。
既存のスタッフや患者を引き継げることが買収側の大きなメリットです。既存の患者基盤だけでなく、設備も引き継げるため、新規開業よりも効率的に事業を拡大できます。また、地域の規制を回避しつつ新たな地域への参入が可能です。
グループ拡大によるスケールメリットが生まれ、経営効率化や購買力の向上が期待できます。地域医療の継続に貢献することで、社会的評価の向上にもつながります。
M&Aにおいては、売り手と買い手の組織文化の違いや経営方針の不一致によって、統合後の運営に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、財務状況や法的リスクの見落とし、従業員や患者の離脱などもM&Aの失敗要因となり得ます。
これらを防ぐためには、事前のデューデリジェンスが重要です。財務・法務・人事など多方面から徹底的に調査し、潜在的なリスクを洗い出す必要があります。また、M&A後の統合計画(PMI)を事前に策定し、組織や業務プロセスのスムーズな統合を目指すことが成功のポイントです。
M&A前に財務状況の精査や法的手続きの確認といった準備をしておくことが成功の鍵となります。財務状況の精査では、貸借対照表や損益計算書を整備し、個人資産と事業資産を明確に分離しましょう。ゴルフ会員権等の不要な資産の処分や、貯蓄性生命保険の扱いを検討し、過剰投資の見直しも実施します。
法的手続きでは、医療法人の定款変更に必要な都道府県知事の認可手続きを把握しておかなければいけません。事業報告書・財産目録・貸借対照表の作成義務を遵守し、自治体ごとの許認可期間(通常1~3ヶ月)を考慮したスケジュールを策定します。
M&A仲介会社を選ぶ際は、内科クリニックのM&Aサポート実績が豊富な仲介会社を選定することがポイントです。業界特化型か非特化型かを考慮し、専門家の在籍状況も確認します。取り扱う案件規模も重要で、自社に適した範囲の仲介会社を選んでください。
仲介会社を選んだら、その専門性と営業力・情報量を最大限に活用します。M&Aの各段階で適切なアドバイスを受け、最適な相手先の探索や交渉を依頼します。また、会計・法務面でのサポートも積極的に活用し、リスクを最小限に抑えながらM&Aを進めることが重要です。
内科クリニックのM&Aでは、契約締結後の運営移行が成功のポイントです。行政手続きや契約の切り換えをスピーディに行うことはもちろん、医療法人の定款変更、診療報酬請求の登録変更も行わなければいけません。患者データの統合管理が特に重要です。電子カルテや診療記録を正確に移行することで、診療の継続性を確保しましょう。
従業員への説明会や個別面談を通じて、新体制への理解と協力を得ることも不可欠です。
買い手側に対するアフターサポートをしっかり行うことで、スムーズな運営開始が実現します。売り手側が非常勤医師などで勤務を継続する場合には、役割や待遇を明確にしましょう。統合後の経営計画書作成や課題解決に向けた継続的なサポートも重要です。
内科クリニックのM&Aは、後継者不足や経営環境の変化を背景に増加しています。新規開業のコストや競争面でのメリットがあることから、大手企業だけではなく医師による既存クリニックの買収事例もあります。内科クリニックがM&Aを検討する主な理由は、後継者不在による事業承継、経営難からの再建、成長戦略としての多院展開などです。M&Aを成功させるためには、明確な戦略と準備が欠かせません。内科クリニックM&Aサポート経験が豊富で信頼できる仲介会社を選定しましょう。