病院のM&A(企業買収や合併)において、時価純資産額は病院の価値を表すものです。病院の経済的な健全性や資産の実際の価値を評価するために利用され、譲渡価格や買収交渉において重要な役割を果たします。
時価純資産額とは、病院の資産から負債を差し引いた純資産を、現在の市場価値で評価した金額のことです。これにより、病院が現時点でどの程度の価値を持っているかを測ることができます。通常、病院の貸借対照表には「簿価」が記載されていますが、時価純資産額はこの簿価を時価、つまり現在の市場価格に置き換えて計算されます。
たとえば、病院が保有している不動産や医療機器などの資産は、購入時の価格とは異なり、現在の市場価値に基づいて再評価されなければなりません。また、負債も時価に換算され、負債の支払い能力も同時に評価されます。このようにして、病院が持つ実際の資産価値が明確になります。
時価純資産額の算定方法は、主に病院の貸借対照表を基に行われます。貸借対照表には「資産の部」と「負債の部」があり、資産から負債を引いた金額が「純資産」です。これを時価で再評価することで、時価純資産額が算出されます。
病院が保有する資産には、現金・預金、不動産、医療機器、診療材料などが含まれます。これらの資産は、購入時の価格や簿価ではなく、現在の市場価格を基に再評価されます。不動産の価値は市場の変動により大きく変わることがあるため、正確な評価が必要です。また、医療機器も時代遅れになったり、新技術が導入されたりすることで価値が変わるため、現状の価値に反映することになります。
負債の項目には、借入金や未払金、長期債務などが含まれます。これらも現在の時価で再評価され、支払い能力を考慮して算出されます。長期債務の利子率や支払い期間によっては、その時価評価額が変動することがあるのです。
資産の時価から負債の時価を差し引いた金額が、病院の時価純資産額となり、その病院が持つ純粋な財産価値が明確になります。
M&Aでは、時価純資産額に加えて「営業権(のれん)」を加味することが一般的です。営業権とは、将来的に得られると見込まれる利益を反映した無形資産です。病院の評判や地域での信頼、患者のリピーター率などがこの営業権に影響を与えます。
具体的には、時価純資産額に営業利益の数年分を加えた金額が、最終的な病院の譲渡価格として提示されることが多いです。この手法は「資産基準+営業権方式」と呼ばれ、中小規模の病院や診療所で広く採用されています。
時価純資産額は、病院の譲渡価格に直接影響を与えるため、M&Aにおいて重要な指標です。時価純資産額が高い病院は、それだけ資産が充実しており、財政的にも安定していると評価されます。一方、時価純資産額が低い場合、負債が多い、あるいは資産価値が低いとみなされ、譲渡価格が低く設定される可能性があります。
また、M&Aの交渉過程では、時価純資産額が買い手と売り手双方の意見を調整する材料となります。買い手は、時価純資産額を参考にしながら、どれだけの価格で買収するかを決定し、売り手もこの指標を基に適正な譲渡価格を主張します。こうした交渉をスムーズに進めるためには、時価純資産額を正確に把握し、評価することが不可欠です。