病院の売却価格は財務・地域性・人材・設備だけでなく、医療特有の無形資産や退職金設計も影響します。本記事では、価格の仕組みと注意点を整理し、交渉を有利に進めるための売却準備を解説します。
買い手は投資回収を重視するため、直近の黒字や無借金経営はプラス材料となります。ただし、決算書上の数字だけではなく実態の収益力が重視されるため、節税で利益を圧縮している場合は、事業の実力を示す実質利益に引き直して評価しなければなりません。
逆に、回収不能な未収金や古い在庫は不良資産として実質的な負債とみなされ、売却価格の減額要因となり得ます。
立地エリアの「医療需給バランス」は将来性を測る重要指標です。具体的には、医療圏の人口構成(高齢化率)や競合病院数、アクセスなどが評価されます。
医療需要が高く、かつ競合が少ない地域は、将来的な患者数や収益の安定性が見込めるため高値がつきやすいです。対照的に、過疎化が著しい地域や競合過多のエリアは、将来的な集患リスクが高いと判断され、評価額が保守的に見積もられる傾向にあります。
医療サービスは、医師や看護師の技術や信頼によって提供されるため、「人」が収益の源泉となります。医師・看護師の定着率、組織運営力、チーム体制などが設備以上に重要な評価項目です。
承継後もスタッフが残り、スムーズに運営できる体制があるほど、承継リスクが低く高く評価されやすいでしょう。一方、離職率が高い場合や、院長個人への患者依存度が極端に高い場合は、承継後の収益減リスクとみなされ、価値が減額される可能性があります。
建物や医療機器の状態は、買収後の「追加投資コスト」として価格に反映されます。具体的には、築年数、医療機器の更新状況、耐震性、老朽度などが評価項目です。改修や更新に追加コストがかかる場合、買い手が負担する修繕費を見越して買収価格から差し引かれます。逆に、築浅で高額機器の更新が済んでいる場合は、即戦力としてプラス評価になり、譲渡価格の向上につながりやすくなります。
中小規模の病院・クリニックのM&Aにおけるスタンダードな手法です。 一般的な株式会社とは異なり、医療法人は「非上場」かつ「非営利」という特殊な性質を持つ点に特徴があります。将来の収益予測(皮算用)よりも、「今、手元に確実にある資産」を評価する方が適しているためです。
計算方法はシンプルで、帳簿上の資産・負債を現在の「時価」に直し、そこに「営業権(のれん代)」をプラスして価格を決定します。
将来生み出されるキャッシュフロー(収益)を予測し、現在価値に割り引いて計算する手法です。将来の収益力を最も重視するため、大規模病院や、成長性・収益性が高い事業のM&Aで用いられます。
しかし、複雑な事業計画の精度に結果が大きく左右されます。事業計画の策定が難しい中小規模の案件ではあまり採用されません。
上場企業や過去の類似M&A事例の倍率などを参考にする手法です。市場の客観的な評価を反映するため、客観性は高いと言えます。しかし、医療法人は上場企業がなく、M&Aの成約価格などのデータは公開されていないケースが多いため、正確な比較対象を見つけるのが困難です。
したがって、単独で用いられることは稀であり、時価純資産法など他の算定手法の補完として用いられるのが一般的です。
時価純資産法における「営業権(のれん代)」の評価は、病院M&Aにおいて特に重要な意味を持ちます。一般企業のM&Aでは財務数値が重視される一方、病院の場合は数字に表れない無形資産の評価が価格を大きく左右するためです。
具体的には、地域で培った信用や患者基盤、行政との関係性などが主な評価対象として挙げられます。時価純資産だけでは測れない価値を可視化し、無形資産をどれだけ適切に上乗せできるかが、売却価格を高める最大のポイントと言えるでしょう。
実際の売却価格は、価値算定による理論評価額と一致せず、交渉過程や個々の事業環境に左右されるものです。
売り手に早期成約を急ぐ事情がある場合、買い手はそれを交渉の優位性として捉え、評価額を下回る価格を要求する場合があります。一方で、市場側の需要が高い局面では、相場を上回る金額になる可能性も。
また、スタッフの継続雇用や負債承継範囲などの譲渡スキームに関する条件も、最終的な取引価格を左右する重要な要因です。
当事者同士の直接交渉では、売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいという利益相反が起き、価格決定が難航しがちです。このため、円滑かつ適正な取引を実現するには、M&A仲介会社などの専門家(第三者)の活用が不可欠となります。
専門家の仲介は、客観的な「時価評価」と「類似事例」に基づき、実勢価格を踏まえた公正な価格提示が可能です。感情的な対立を回避しつつ、潜在的なリスクや条件調整の可視化も実現。税務面から「手取り額の最大化」を見据えた譲渡条件の改善を目指せるでしょう。
医療M&Aの手数料は、譲渡価格に応じて料率が段階的に変化する成約報酬型「レーマン方式」が主流です。
医療M&Aでは案件規模に関わらず、行政対応を含む専門実務は必ず発生し、業務工数を減らすことはできません。仲介会社によっては、最低報酬額を設定している場合もあります。この下限設定により、小規模な案件でも数百万円から数千万円規模の報酬となる場合があるため、契約前にトータルのコストを必ず確認しましょう。
高く売るには、買い手が負うリスクを減らす事前準備が不可欠です。具体的には、私的な経費の排除や不要資産の処分を行い、財務データ(決算書)の透明性を高めます。
同時に、建物・医療機器の整備、スタッフの定着率改善など、買い手が重視する運営の質を整えておくことが、評価額の向上に繋がるでしょう。
M&Aの税金は、法人形態によって大きく異なります。「出資持分のある医療法人」の場合、譲渡益に対し理事長個人に税金がかかります。
一方、社会医療法人など「持分のない法人」は持分売買ができません。退職金支給や事業譲渡などのスキームが用いられ、課税対象や税率の扱いが根本的に変わる点に注意が必要です。
M&Aに伴い退任する理事長への退職金は、譲渡対価の一部が法人から役員退職金として支給されるのが一般的です。退職金は、株式譲渡益など他の所得に比べ税制上の優遇措置(退職所得控除など)が手厚いため、手取り額の最大化に繋がります。
ただし、高額すぎると法人側で損金不算入となるリスクも。リスクを避けるには、功績倍率法などを用いて適正額を算出し、事前に専門家と調整することが不可欠です。
画像引用元:名南M&A公式HP
画像引用元:エムスリー公式HP
画像引用元:日本M&Aセンター公式HP