眼科クリニック業界では、少子高齢化や後継者不足を背景にM&Aが活発化しています。特に地方の小規模クリニックが大手医療グループに統合されることで、経営効率化が図られているケースが少なくありません。また、最新技術の導入を目的とした動きも顕著です。AI診断技術やレーザー治療技術を持つクリニックが買収対象として注目されています。
製薬会社によるM&Aも増加傾向です。眼科医療機器や治療薬の獲得を目的としており、アステラス製薬やメルクが新薬開発や市場拡大を目指して積極的に買収を行っています。
眼科クリニックがM&Aを検討する大きな理由に、後継者不在による事業承継の問題があります。高齢化する院長の引退に伴い、家族や従業員に適切な後継者がいない場合は、M&Aが有効な選択肢です。
経営難からの再建を目指すケースもあります。患者数の減少や設備投資の負担増加により経営が悪化した場合、大手医療グループとの統合によって経営基盤の安定化を図ることが可能です。
また、成長戦略としての多院展開を目指す眼科クリニックもあります。単独での拡大が困難な場合、M&Aを通じて規模を拡大し、経営効率の向上や地域でのプレゼンス強化を実現可能です。最新の医療技術や設備の導入を目的としたM&Aも増加しています。
M&Aの基本的な流れは、「準備段階」「相手先の選定」「デューデリジェンス」「契約締結」「統合・運営移行」の5ステップです。
「準備段階」では、売却・買収の目的を明確化し、財務状況や事業価値の分析を行います。次に「相手先の選定」です。条件に合う買収先や売却先を探し、交渉を開始します。
「デューデリジェンス」と呼ばれる詳細な調査を行います。取引の適正性を確認するステップです。財務状況や法的リスク、事業運営の実態を精査します。問題がなければ「契約締結」のステップです。売買契約書や関連書類を作成します。最後は、「統合・運営移行」です。組織や運営体制を統合し、新体制での業務が円滑に進むよう調整します。
ロート製薬は2024年6月、オーストリアの製薬会社モノケムファーム・プロドゥクト(モノ社)の株式51%を取得する契約を締結しました。ロート製薬とMNP(モンドピヒラー・ノールドゥン民間財団)が共同出資する特別目的会社(SPC)を通じて行われています。
買収の主な目的は、欧州市場での事業拡大とアイケア事業の強化です。ロート製薬の欧州市場における売上比率は現在5.1%にとどまっており、さらなる成長の余地があると判断しました。
モノ社は医薬品・医療機器の製造・販売を行う企業で、最新の欧州規制に準拠した高品質製品の生産能力を持っています。ロート製薬は、モノ社の生産力と自社の研究開発力を組み合わせることで、欧州市場での革新的な事業創出を目指しています。
お茶の水・井上眼科クリニックは、2006年に井上眼科病院の駿河台にあった3つの外来施設を統合・独立させて新お茶の水ビルディングの18F・19F・20Fに開設されました。
統合・独立の主な理由は、患者数の増加と施設の老朽化への対応でした。新クリニックの特徴として、ユニバーサルデザインの導入が挙げられます。患者のストレス軽減と安全確保のため、照明、床、トイレ、案内表示など、様々な箇所に誰にでも分かりやすく利用しやすいデザインが施されています。
この統合により、井上眼科病院グループは効率的な診療体制を構築しました。井上眼科病院が手術、入院、特別外来を担当し、お茶の水・井上眼科クリニックが外来診療の窓口となる体制が確立しています。
豊栄会は2020年1月にきゅう眼科医院を買収しました。豊栄会は埼玉・東京で複数の眼科クリニックを展開する医療法人であり、この買収によって静岡県への進出を果たしました。
きゅう眼科医院は静岡市に位置し、緑内障・白内障・網膜硝子体疾患・ロービジョンを中心に最新設備による診療を行っていた眼科医院です。買収の主な目的は、医療高度化への対応とされています。
買収のスキームや取引価額は非公開となっていますが、事業承継の形で行われたことが報告されています。この買収により、豊栄会は地域密着型の統合を実現し、患者サービスの向上と医療提供体制の充実を図ることが期待されています。眼科クリニック業界における地域拡大と医療サービスの向上を目指したM&Aの事例です。
M&Aで院長の引退に伴う後継者問題を解決できます。高齢化や体調不良により経営が困難になった場合でも、M&Aを通じて信頼できる後継者に事業を引き継ぐことが可能です。
大企業や大手グループの傘下に入ることで、大規模な経営資本を活用できるようになります。経営安定の面で大きなメリットです。社会的信用度の向上も見込めます。
従業員の雇用を維持できる点も見逃せません。M&Aによって事業継続が可能となるため、従業員の職を守ることができます。廃業する場合と異なり、医師や事務員などの雇用を確保できるのは大きなメリットです。
眼科クリニックの経営者は円滑な事業承継と従業員の雇用維持を実現しつつ、自身の引退後の生活設計も可能となります。
買収側の大きなメリットは、既存の患者基盤獲得です。買収によって固定客を維持したまま事業を拡大できます。新規開業と比べ、顧客や取引先、ノウハウを一から構築する必要がなく、即座に安定した経営基盤を得られます。新たな地域での定着にかかる時間とコストを大幅に削減可能です。
診療エリア拡大の観点でもメリットがあります。M&Aを通じて新たな地域に迅速に進出することが可能です。特にグループ病院の場合、既存の眼科クリニックを買収することで、その地域の固定客や取引先をそのまま獲得できるため、効率的に事業エリアを拡大できます。市場シェアの拡大や競争力の向上につながり、新規患者の獲得もスムーズに進むことが期待できます。
M&Aにはいくつかリスクが伴います。主なものとして、組織文化の違いによる従業員の不満や離職、経営方針の不一致による統合後の混乱、想定外の負債や法的問題の発生などが挙げられます。
これらのリスクを最小限に抑え、M&Aを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
準備を十分に行うことで、M&Aの成功確率を高めることができます。
眼科M&Aの売却・買収を成功させるためには、事前の綿密な準備が不可欠です。まず、財務状況を整理しましょう。過去数年分の決算書や税務申告書を精査し、収益性や負債状況を明確にします。また、診療報酬の請求状況や未収金の管理も確認が必要です。
法的手続きの確認も重要なステップです。医療法人の定款や契約書、許認可の状況を精査し、M&Aに伴う手続きを明確にします。さらに、従業員の雇用契約や就業規則の確認も忘れてはいけません。診療設備や医療機器の棚卸し、患者データの管理状況の確認も必要です。
実績や専門性を持つ仲介会社の選定は、スムーズなM&A推進に不可欠です。選定の際には、まず眼科業界での実績を確認し、専門知識を持つスタッフが在籍しているかを確認します。また、ネットワークの広さと質も重要な要素です。
仲介会社を活用すると、適切な買収・売却先の紹介や交渉プロセスのサポート、デューデリジェンスの支援など、全プロセスの支援を受けられます。M&Aを成功させるためには、信頼できる仲介会社を選び、その仲介会社との緊密なコミュニケーションを維持し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
M&Aの契約締結後は、運営移行という重要なステップに入ります。運営移行で行うのは、業務プロセスの再設計、従業員への教育、ITシステムの統合などです。多くの場合、一定期間のTSA(Transition Service Agreement)が締結され、譲渡側が継続的にサポートを提供します。
アフターサポートも重要です。統合プロセスのサポートや経営コンサルティングが提供されます。従業員のモチベーション維持や離職率の抑制、法的・財務的リスクの管理も重要です。適切なアフターフォローにより、M&A後の企業価値向上と円滑な統合が実現されます。
眼科業界では、少子高齢化や後継者不足を背景にM&Aが活発化しています。後継者不在による事業承継、経営難からの再建、成長戦略としての多院展開などです。地方の小規模クリニックが大手医療グループに統合され、経営安定化・効率化が図られているケースがあります。
M&Aの基本的な流れは、準備段階、相手先の選定、デューデリジェンス、契約締結、統合・運営移行のステップで構成されます。スムーズなM&Aの実現には、信頼できるM&A仲介会社を選定し、各ステップを適切に対応してもらうことがポイントです。